「力とモーメント」への一考

先に投稿した「やり木」と摺臼との動的関係においても「力」と「モーメント」は重要な位置づけにあります。これまでに関わってきたどの民具・農具・道具すべてにおいて,この本質的な関係性が,一見有機的な魅力を持ちつつも,驚嘆せざるを得ないほどの無駄のなさで調和している状況に幾度も遭遇してきました。その一方で,初等的な力学であるこの「力」と「モーメント」が,”初等的”であるとは言い難いほどの奥深いものがあること,そこにもまさに「力」,「モーメント」の概念を構築し,体系化した先人たちの偉業が見えてきます。この投稿では,少しだけ昔を懐かしみつつ,基本に戻ってみたいと思います。

力とは:

物体を移動させる能力/可能性

「力」と言われて何をイメージするでしょうか。何かの圧を感じている人はそれが嫌な「力」かもしれません。それでなくても子供のころから何かにと「力」とは付き合ってきています。

力を初等的な視点で大別すると,地面に接しているときに体感できるものは「地面からの力(反力)」と言えるでしょう。もちろん,その力も,一点に集中している力(これが一番絵に描くの楽ですね)つまり集中荷重,接している全体でその力を感じているときは分布荷重となるでしょう。力の一般的な単位はNですが,分布荷重ではちょっと違ってきますね。線状に分布しているときと面上に分布しているときは異なってきますので,注意が必要です。

また,この体感できる「力」はどこから来ているでしょうか?それがもう一つの力ですね。物体力です。私たちが普通に生活している中で目にできるものには必ず「質量」があります。正直なところ「質量」が存在すること自体が不思議でならないのですが,ここでの深入りは無用かなと思いますので,素直に質量mを受け止めて,物体力を定義しますと,我々の身体すべての部位に分布する質量それぞれに地球上での重力加速度gが掛けられてmgが地面に働きかけている状態です。もう少し気の利いた表現をするなら,身体各部位の質量miとすると,身体各部位に分布する物体力はmigとなり,すべての物体力を足し合わせると,いわゆる体重は∑migとなります。

モーメントとは:

物体を回転させる能力/可能性

「力」は普通では目に見えないものですが,このように体感することができます。ここでは,この「力」による「モーメント」を再度考え(復習)してみましょう。初等的な物理学や材料力学・構造力学なのでモーメントは頻繁に出てきますが,計算に使えるものの,いつもなんだか実態が見えない不思議な感じがします。実像が見えない「力」と一緒なのですが,それ以上に,頭の先では理解していても,「モーメント」なるものは一体何なのかと,学生さん相手にお話すればするほど不思議さが増してきます。そして,「モーメント」と「力」を結ぶ「キョリ:距離」ですら怪しくなってきます。病気かもしれませんね。

久しぶりに,と言っても半年ぶりですが,教科書を開き,どう読み返しても,

モーメント=力×距離

と書いてあり,「自明の理」としてこれ以上介入できそうにもありません。点と点の間の距離ならまだ迷いようがないのですが,点と線分(ここでは力を表すベクトルです)との「距離」は,意外とトラップだったりします。まずは,この「キョリ」の問題に悩まされる余地がない例題から考えてみることにしたいと思います。

定滑車での「てこの原理」から

シーソー型の「てこの原理」の説明にはやや食傷気味かなとも思いますので,少しだけひねって一個の定滑車を介してのばねと錘の間のモーメントのつり合いを考えてみましょう。

この定滑車の図心・重心は回転自由なピンで空間に固定されています。定滑車の上部にはばね定数kのばねが水平に取り付けられています。錘はひもを介してこの滑車の左に取り付けられています。錘の質量はmです。

重力加速度をgとするなら,このとき錘が定滑車を時計回りに回転させようとする能力は,点Oを回転中心・モーメント算定の基準値とすると,その能力・可能性を,mg×Rとすることにそれほど違和感がないと思います。さらに,その単位はmgN),Rm)なので,仕事と同じ単位のNmとなります。ただ,仕事の時はNの方向が同じなのですが,モーメントの場合はそれらは直交しています。これも深入りすると混乱するばかりなので,次節で軽く触れておきたいと思います。ここでは大事なことは,このときのばねの伸びが簡単に解けるか否かです。もし,迷うようでしたら,次のセクションにも付き合ってもらえると幸いです。

定滑車とばねと錘によるこの運動系に振動が起きないように,静かにmgによるつり合い状態に持って行けたときの,ばねの伸びを考えましょう。バネに掛かる力の錘による力の向きは水平と鉛直方向に直交しているので,力のつり合い関係でこの問題を解くことは不可能かなと思います。そこで,今一度,錘による定滑車への働きかけは時計回りの回転運動を起すことを考えますと,ばねによる定滑車への働きとしては反時計回りに回転運動を起すものであることは当然です。この2つの相反する向きの回転運動の可能性を打ち消し合うには,時計回りの回転可能性であるmg×Rが,ばねの伸びによるばね力×Rで相殺されればいいわけですね。そこで,このときのばね力をどう考えるかに尽きるのですが,図に示すように,ここでは目視でかろうじてその回転が確認できる程度の微小な運動としますが,錘により定滑車が時計回りにθだけ回転したとすると,ばねの伸びはであることは,幾何学的な近似としては問題ないかと思いますので,さらにこのばねのばね定数をk(N/m)とするなら,ばね力はkRθとなります。

いよいよ,ばねと錘のモーメントの対峙が見られます。時計回りのモーメントを右辺に,反時計回りのモーメントを左辺に配置した等式をしめしますと,

kRθ×Rmg×R

となります。両辺ともその単位はNmです。

次に,この問題に少しだけ毛をはやして,定滑車から径の異なる2つの定滑車が一体化した輪軸で同様に考えてみましょう。ここで,モーメントへの理解の確認ができるかなと思います。

輪軸でのばねと錘のモーメント

下図のように外輪の半径をR,内輪をrとした輪軸を考えます。まずは,次を読まずに,このときの反時計回りのモーメントと時計回りのモーメントを定義してみてください。答え合わせはその後の方が良いかなと思います:-)

さて,答え合わせです。

kRθ×Rmg×r

一か所違うだけですね。モーメントは回転運動を起す能力・可能性であり,回転そのものではないことを理解しながら確認してみると良いかもしれません。

モーメントと距離の再確認

いよいよ「キョリ」です。なぜここまで距離にこだわるかと言いますと,構造力学や工業力学的なお話をするとき,意外とこの距離をまちがってモーメントを求めがちだからです。「力」の場合はその向きに挙動が起きるので,まだイメージしやすいのですが,「モーメント」の場合は,回転軸の方向は,力と距離が存在している平面に対して直交している,最近ではそれも垂直と言っているようですが,つまりその平面の法線方向と一致しているので,ある意味,二次元問題を扱いつつも三次元問題的な視点が必要となっているので,この不思議な感覚が残るのでしょう。でも,先ほどのばねと錘の問題でも,二次元思考では力の向きが揃わず扱いに苦しむことになると思いますが,モーメントに置き換えることで一つ次元を上げることになり,ばねと錘の効果を容易に比較することができる訳です。もし,「モーメント嫌い」であったら,この次元アップグレードの面白さでなじんでみてください。見えてくる世界が少し違ってくるかもしれません。

さて,下の図を見てください。任意の剛体に二つの力(集中荷重)が掛かっています。この図は,実は,2D物理シミュレーターのWorkingModelからの切り取り,一部説明追加したものなので,実際の挙動の確認ができます。ここでは無理ですね。この確認により,F1 のみではこの剛体に回転運動はおきません。重心である点GからF1 の始点まではr1 で表示された大きさをもった位置ベクトルで示されるのですが,r1F1 で定義されるモーメントは0です。このことを確認するために,大事な図を重複しますが,拡大して続けます。

図中の破線はF1F2 それぞれの作用線です。結論を急ぐとしたら,このときの「距離」は,点Gから作用線である線分に対する「距離」です。ずいぶん昔に「線分と点との距離」の定義についてはどこかで情報を得ているとは思いますが,モーメントと距離の関係で混乱気味の状況に出会うと,この部分の不思議さを再確認することになります。『これが距離だ!』とするのも楽なのですが,なんだかどこかで自分も含めてうやむやにされているような気もします。

そこで,図解で行ってみようと思います。実は,riiFi ともにベクトルであり,この二者間のかけ算としては,九九で馴染みのスカラー積(内積)とCG,ポリゴン定義でおなじみのベクトル積(外積)があり,このモーメントはベクトル積としてスッキリと定義されます。でも,ここでは図解に徹しましょう。

その力の作用線が点GからオフセットとなっているF2 によるモーメントの大きさは,図示されているように,r2F2 で囲まれた平行四辺形Gabcの面積として定義できます。そして,この平行四辺形と底辺Gcを共有する長方形Ga’b’cの面積と同じことが分かります。図中ではr2 sinθが ,この長方形の高さであると同時に,点GからF2 の作用線への「距離」となります。

それでも釈然としないところが残るかもしれませんが,r2F2 で構成される面の大きさが極値として定義される部分はこの「距離」なので,「モーメント」と定義する安定した概念を形にするにはとっても健全な考え方かなと思っています。

いかがだったでしょうか。『余計にわからなくなった~~#』と言われそうでもありますが,まずはここまで書いてみました。ご意見いただけたら有難いです。リファインして悩めるこれからの学ぼうとする人たちの一つの参考になれば良いかなと思っています。

力とモーメントの関係から思うこと

小さな力でも,それを掛ける方向と,普遍的な意味での「中心」との距離関係において,大きな「動き」を引き起こす可能性がある。むしろ,このことを理解しないままにやみくもに力を掛け,エネルギーを消費しても,「ものこと」は動かず,他に対する影響も生じない。大事なことは,ポイントを見極め,そのポイントを重心とする「ものこと」への働きかけが,もっとも効果的になされる力の掛け方を探るべきである。と自分への戒めとして:-)

ページトップへ戻る:page top


comment

コメントを残す

OnkoLab Co., Ltd.をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む