アジロ編み籠における縦横と斜めのアジロ配置の違いについて

  1. 2本飛び2本潜り1本送りのタテヨコのアジロ編みから
  2. アジロ・パターンの単純化
  3. アジロ・パターンから2Dフレーム構造へ
  4. 2つのタイプのアジロ編みにおける構成部材が受ける力(曲げ力)の基本的な相違について
    1. 布テープによる2つのアジロ編み(手習い①)
    2. PPバンドによる2つのアジロ編み(手習い②)
    3. 撮測3Dによる2つのアジロ編みの形状測定とそれぞれの曲率半径
  5. 曲げモーメントMと曲率半径ρとの関係から考えられること

2本飛び2本潜り1本送りのタテヨコのアジロ編みから

 アジロ網の籠に注目すると,その網の主軸が縦横に配置されているものと,きれいに45度回転した斜めに配置されているものがあります。個人的には,どことなく古風な,どことなく素朴な縦横タイプがなんとなく親近感を覚えるのですが,斜めに配置されたアジロ網の籠,むしろこちらの方が最近は主流なのかもしれませんが,その工芸品的なもしくは工業製品的な完成度の高さ,構造体としての安定性には,姿勢を正す思いで対峙することがあります。

縦横方向に編まれたアジロ編み籠(奈良)

 まずは,このアジロ・パターンをよりどころにフリーのドローイングソフトであるInkscapeにて作成してみました。

インクスケープからこの後の考察に必要な部分だけをスクリーンショットすると,

そして,上図の書き込んだ文字を手掛かりに「2本飛び2本潜り1本送り」をたどってみると,a,bが「2本飛び」,c,dが「2本潜り」,そして,一段目のaが二段目のaに右に一目進んでいることが分かります。こうなると,図中の水色の縦(経)材を,一段目のbと二段目のaの二カ所でそれぞれの横(緯)材により段違いに固定もしくは束縛している様子が伺えます。bは縦材が右に流れるの抑え,aは左に流れることを抑えてくれそうです。

この一段目と二段目のそれぞれのaが縦材に上から押し込まれ,bだけが上に出ていると,もう一つの代表的な市松模様パターンのアジロ編みとなります。線状のものを平面上に縦横に敷き詰める時に,お互いを一本ずつ抑え込んでいくことの方が「編む」作業としてはとっても素直な気もしますが,上図の例のように,二本飛ばし,二本潜りの発想に至った経緯に興味が持てます。少なくとも言えることは,同じ幅で同じ厚みの線材で考える時,その線材が硬く,曲がりにくくなるにつれて,市松を構成する「一本飛び一本潜り」では,作り手は材から強い反発力(曲げに対する抵抗力)を感じ取ることになるのではと妄想を膨ら前せることはできます。

アジロ・パターンの単純化

アジロでの縦材・横材の交差の効果は,結構複雑であることが理解できるのですが,まずは,一番シンプルな単純化をやってみて,この構造の大まかな特徴を確認しておきたいと思います。

このアジロ・パターンから,構造的な主軸(黄帯と赤帯,下図)を定義し,縦横アジロ・パターンと斜めアジロ・パターンをさらに単純化してみます。

 この図は,正方形状に切り取った縦横アジロと斜めアジロの上辺と下辺を変形しない板(茶色)で挟み込み,上下に引っ張り力を与えている状態です。

厳密な物理シミュレーションの実施は,実際のところは多くの問題を抱え込むことになるので,見た目よりはなかなか大変なことになりますが,アジロ網の作品を触れるときの実感覚と合わせて上図の設定をイメージすると見えてくることがあります。

左の縦横アジロでは,黄帯の縦材のみが多くの力を分担することが理解できると思います。それに対して,右の斜めアジロでは,黄帯とともに赤帯も同じレベルで上下に掛けられた力を等しく配分することが期待できます。図中の黒矢印は帯にかかる引張力をイメージしています。このことが何を意味しているかと言うと,上図では,厳密性は大いに欠けますが,同じ面積に展開する同じ構造のアジロ網が,それを構成するお互いに直交する帯の配向方向と力の掛かり方の違いで,その構造の力学的な効率性(外部から掛けられる力を,如何にうまく,その構造材(帯)に配分するか)が大きく変わることを示唆しています。上図のケースでは,斜めアジロの強さ(変形のしにくさ)を感じ取ることはできるかなと思います。

次に,横方向の力(せん断力)を上辺下辺に掛けることを想定します。これは,円筒状のものの長軸を回転軸としたときのねじれに相当すると理解しても第一次近似的には,つまり大雑把にものごとの挙動を見るときには,その基本的な特徴把握には効果的かもしれません。

図中の黒枠がそれぞれのアジロ・パターンの基本要素を示します。右は洋裁でのバイアスカット的にも見えますが,ここでは四角形およびひし形の基本要素の四隅は,相対的に剛に結合されているとみなした方が現実的に合っていますし,編み組み部分がしっかりと噛み合っていることは,アジロ編みでの留意点の一つであるようにも思えますので,左のパターンの基本要素にはビルディングの柱に真横から力を受けるような状況にあり,右のパターンでは,それに対する耐震補強のような状況にあるので,明らかに右の斜めアジロ・パターンの方が変形しにくく,全体の形が崩れにくいことがイメージできると思います。その一方で,左の縦横アジロ・パターンだと,柔軟性があるともいえる訳です。縦横アジロの腰籠が身体になじむとのことも,このようなメカニズムによるのかもしれません。

その後,PPバンドで試みに,季節もそうなので梨籠(近くにたくさん梨園があるので,これで買い出しに行こうと思っています)を作ってみてもらいました。カミさんにとっても初アジロ籠です。

確かに,PPバンドが組み合っているところは,初心者(人のことは全く言えませんが)であり,PPバンドの特性もあり,驚くほどゆるゆるです。容易にせん断変形しています。ということは,ひとつ前の図で意気揚々に説明した考え方では現実に合わないことが明らかです。困りました。そこで,さらに,縦横アジロと斜めアジロの単純モデル化を目指しました。ここまでくると,初等的な建築系構造力学で出てくるフレーム構造問題に集約されるような気もしますが,そんなに単純でないことは後日痛いほど分かりました。

アジロ・パターンから2Dフレーム構造へ

下図は,2Dですが,とっても扱いやすい物理シミュレーターのWorkingModel2Dによるものです。コンピューターの中ですが,構造の挙動をシミュレーションすることができます。まずは,初期状態,つまり力を掛けようとする直前の図を示します。パターンもしくは色が異なる隣接するすべての部材の端は,お互いにピンのようなもので結合されていることを想定しますので,基本的にはすべての部材がゆるゆるで連結されています。ただ,このことも後日痛感することになったのですが,編み方によっては,この結合部は単に回転自由だけではなく,縦横にも“いい加減”にズレる柔構造的な結合であることに気付くことになりました。これは大きな気付きであり,モデル化にとっては恐ろしいく困難なファクターとなります。とはいえ,段階的に考察を進めていくしかないので,ここでは,まずは縦横材の交差を回転自由のピン一つで結合されているという前提でシミュレーションをしてみました。

構造力学の約束事なのですが,縦横モデルと斜めモデルそれぞれの左側上端と下端に三角形が付いています。上の三角形は,この左上端は,虫ピンのようなものでこのモデルが壁に固定されているような状況です。回転することはできますが左右上下に動くことはできません。そして,左下端の三角形の底辺には〇が2個ついています。これは,この点の虫ピンは上下方向には自由に動けることを示しています。もちろん,左下端でも回転は自由です。また,それぞれのモデルの右上端には下向きの力がかかっています。この状況でシミュレーションをスタートさせると,

このような感じです。部材に描かれたパターンや色は左右のモデルの対応を取るためのものです。ほぼ同じ量の部材で構成されている2つの構造の挙動が顕著に異なることが確認できます。もちろん,この解析は2Dで抑えているので,上図の斜めアジロは安定している様子を見せていますが,これはとっても理想的な状況であり,やや現実味を欠くかもしれません。しかしながら,ここまで考察を進めると,縦横パターンは構造的には不安定であり,それが柔軟性につながると理解でき,斜めパターンは,構造体の基本要素の一つであるトラスであることが確認できます。外側4辺すべてがピンのようなもので結合された2本の部材で構成されているので,このままではトラスとはいいがたいのですが,2Dに限定されている状況では,この宙に浮いたピン結合点(それぞれの辺の中点に位置する結合点のことです)と斜材がクロスする中心点との間には“0部材”と言われるトラスの部材が存在する状況に近いような結果となっています。図中では,この0部材は表記されていません。

“0部材”とは,初等的な力のつり合い関係だけでは,その部材には力(応力/内力)がかかっていないことを意味していますので,力学的にはその部材はなくてもいいのですが,その部材がないとトラス構造の部材配置が崩れてしまいますので,必須なものです。上記のシミュレーションの結果は,あまりにも理想的ですが,斜めに部材を配置したこのアジロ・パターンは本質的にトラス構造的な面もあることを示唆しているのかもしれません。

2つのタイプのアジロ編みにおける構成部材が受ける力(曲げ力)の基本的な相違について

上記の説明では,2本飛び2本潜り1本送りのタテヨコのアジロ編みをベースに置きつつ,この形を構成する帯状の部材(PPバンド,タケ,その他)が交差する部分は,ピン・ジョイント(回転は自由な点での結合)に置き換えているために,アジロ編みに見られる多様な編み方の違いに関しては無視していることになります。実際には,アジロ編みによる籠の全体的な特徴・特性は,それを構成する材料の柔軟性,表面性状,伸縮性などの材料特性と,その特性と連動した選択されていると思われる編み方,さらには,それによって形作られている籠本体の使用目的,使用環境までをも含んで,繊細に変化,対応しているように見えますので,編み方そのものにもっと丁寧に向き合う必要があります。といっても,そう簡単に数理的な解明を行えるような対象ではありませんので,まずは,今となってはもっとも手に入れやすく,かつタケ的な弾性特性をもった材料の一つ言えるPPバンドでアジロモドキを編んでみることにしました。

布テープによる2つのアジロ編み(手習い①)

PPバンドやタケが持つ弾性特性(特に曲げに対する抵抗力・復元力)の効果が,それを編むことによって構成されるものの形に強く影響することは自明の理かなと思いますので,まずは,この曲げ剛性(曲げに対する抵抗:曲がりにくさ)が無視できる布テープで編んでみました。すべてにおいて初心者なので,どうか大目に見てください。

左(市松パターン)がバンド一本ごとに縦横互い違いに重なり合っているものです。おそらく,線状のもののみで面を構成しようとするときの最も基本的な編み方かなと思います。直交する完全に独立した二つの線を接着することなくつないでいくには,それぞれの線に隣接する他の線との組み合わせて,互いの動きを抑制し,まさに繋ぎ止める必要があるので,このパターンはとっても素直な選択かなと思います。ただ,このようにくねくねと上下にお互いにクロスして交差させるには,その線の柔軟さが必須です。線が帯(バンド)になり,曲げに対する抵抗をし始めると,この編み方に緊張感・ハリが生まれます。おそらく,この抵抗力が強まるにつれ,最終形態の大きさにもよりますが,自ずとこのパターンでゴールを目指すことに限界が出てくることは想像に難くないかなと思いながら,なれない作業を続けていました。

右(二本飛び,二本潜り,一目左に進む:2-2-1r(ight)としましょう)は,このブログの初めに紹介しました「2本飛び2本潜り1本送りのタテヨコのアジロ編み」を模したものですが,送り目の方向は右でなく左になっています。この段階で,曲げ剛性に高い材料を扱うときは,こちらの編み方の方が合理的だなと,素人ながらに感じました。縦横のテープが,その見た目に反して,素直に組み合わさっていくような感じがしました。実際はどうなのか,自信はありません。

PPバンドによる2つのアジロ編み(手習い②)

このPPバンドは巻が大きくやや曲げ癖が弱かったので,ヘタなりにここまで抑え込めましたが,最初にトライした巻の小さい曲げ癖の強いものでは,目を離した瞬間に形が崩れるほどのバンドの曲げに対する抵抗力を感じることができました。むしろ,そちらのサンプルの方が魅惑的でもありますが,あまりにひどい仕上がりなので,稚拙なりにこちらの方で,編み方によるPPバンドの局所的な曲がり具合の測定に挑戦してみました。左が1-1-1r,右が2-2-1lかなと思います。

撮測3Dによる2つのアジロ編みの形状測定とそれぞれの曲率半径

小さなターゲットにこのステレオカメラによる光学的3D形状測定は難しいかなと思いつつも,まずは挑戦することにしました。使用したステレオカメラはアルモニコス社製の撮測3Dと呼ばれるシステムで,測定デバイスとしては,FUJIFILMのFinePix REAL 3D W3Mを使用しています。

PPバンドの光沢感もあり,なかなか完全な形状取得はできていませんが,基準寸法は誤差なく取得されていますので,このステレオカメラでのワンショットデータで構成される3Dもなかなかのものかなと感じています。

ここでの3D形状データの取得の一番の目的は,1-1-1r(市松:一本飛び一本潜り,一目右)を編むときのPPバンドの曲げに対する抵抗力と,2-2-1lのときのそれとの顕著な差異を,編まれた後の形状,ここでは,“飛び”の部分の曲率半径を求めることで,その曲げの抵抗力を定量的に表現できないものかとの目論見があるからです。

1-1-1rでの“飛び(黄色部)”の曲率半径の測定

1-1-1rの側面から

2-2-1lの側面から

この測定結果より,まだ場当たり的な測定ですが,1-1-1rの“飛び”部の曲率半径は,130mmから170㎜程度,2-2-1lのそれは,410mmから480㎜程度であることが確認できました。統計的な有意性の担保を待たなくても,十分にその曲げの特性の差異が表現できていると思います。

ここまで頑張ってきましたが,得られた結果は至って当然なことなのかな感じています。ただ,造形時の材料が示す力学的なメッセージを造形後の形態から数値をもって読み取れそうなことは,個人的にはとっても興味を持つところです。

曲げモーメントMと曲率半径ρとの関係から考えられること

上で求めたものは曲率半径ρです。下図のように,同じ材質で同形状の梁状のもの,ここでのバンドも含みものが,外力を受けて下図のように曲がるときは,疎の梁には曲げモーメントであるMがかかります。代表的な材質である弾性率・ヤング率(材料としての変形のしにくさ)と梁の断面形状(竹にしてもPPバンドにしても,薄い長方形状の断面が見えてくると思います)による曲がりにくさの資料である断面二次モーメントIにより,一般的には,M=EI/ρと表現することができます。

ここで比較している2つのアジロ編みは,材質も形状も全く同じなので,このEIは一定で,曲率半径ρのみが異なることが分かります。つまり,ρの短い1-1-1rを曲げるのに2-2-1lを曲げ力(曲げモーメント)の約3倍程度かかることが推定できます。このことは,素人ながらもアジロ編み比べにおいても体感できます。

今回は,2つのアジロ編みにおいて同じ材質,形状のものを使いましたので,上記のような当然のことを確認するだけに留まっていますが,1-1では材料が暴れて,編み込めないような曲げに抵抗する(曲げ剛性が高い)ような材料を編み込もうとすると,自ずと2-2かそれ以上に遠くに“飛ばし”て,材料に必要以上のMを掛けないような編み込み様式に変化するのも当然かもしれません。材料の弾性(曲げに対する復元力)が大きいほど,大胆に“飛ばし”て,その弾性材が示す自然な曲線を,その造形に有効に活かすことができるわけです。竹籠で,立ち上がり部分に自然な三次曲面が伺えるものがありますが,それはまさに弾性材本来の曲げを受ける時の自然な曲線がうまく制御されていることを意味します。

その一方で,草木や木の皮などの曲げ剛性が低い材料は,むしろ1-1で一本ずつを縦横お互いに抑え込みながら編み込むことで形の安定性を得ることができます。部分の安定した造形が全体に反映しているとも言えそうです。

あらためて,1-1と2-2との比較対象において,1-1の縦材横材の部分ごとに編み構造を安定させようとする方法と,ある程度広がりを持った複数の縦材横材を巻き込んで,部分的には固縛しきれなくても二つ先,三つ先までの材料を巻き込み(関連付け)ながら,相対的に広い範囲で構造を安定させていく方法の違いが,この編み方の違いにも明確に反映されているようにも思えます。

続きは,今度は2つの籠を作ってみてからにしたいと思います。お付き合いいただき有難うございます。

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  1. 2本飛び2本潜り1本送りのタテヨコのアジロ編みから
  2. アジロ・パターンの単純化
  3. アジロ・パターンから2Dフレーム構造へ
  4. 2つのタイプのアジロ編みにおける構成部材が受ける力(曲げ力)の基本的な相違について
    1. 布テープによる2つのアジロ編み(手習い①)
    2. PPバンドによる2つのアジロ編み(手習い②)
    3. 撮測3Dによる2つのアジロ編みの形状測定とそれぞれの曲率半径
  5. 曲げモーメントMと曲率半径ρとの関係から考えられること

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2 responses to “アジロ編み籠における縦横と斜めのアジロ配置の違いについて”

  1. かごにおいては、編んで平面を作るだけではなく、垂直に立ち上げて側面を作る、という点が重要だと思います。斜めに立ち上げる場合は、底のバンドをそのまま編んで側面にすることができますが、垂直に立ち上げる場合は、底とは別に、側面にバンドが必要になります。
    でも、斜めに立ち上げる場合は、底を網代編みにしたとしても、そのままの編み方で側面を作ることはできません。四方網代や長桝網代といわれる編み方が必要になります。
    PPバンドでは、1×2や1×3だと構造的に弱い。できれば1×1で作りたい。
    紙バンドや竹は、1×1では作れない。1×2や1×3にせざるを得ない。

    1. ありがとうございます 勉強を続けてみます これからもよろしくお願いします

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