竹富島のシーサーの顔の形

今回は龍頭でなくシーサーの頭をいつもの形態分析に掛けてみます。その3D造形を構成するポリゴンメッシュの方向性を可視化してみます。どのシーサーも屋根の上に設置された自然な状態ですし,植え込み,壁,隣接する屋根などで3D化するには十分な画像が撮れていませんが,どのシーサーも基本的には左右対称な頭部となっていますので,基本的には頭部の前部の半分でも取得できると,ここで実施しようとしている形態分析はできそうです。



シーサー① 07_21_11.31

屋根職人による余った漆喰での造形とも聞きましたので,この非対称性は“味”の一つかなと思います。なんとも他人とは思えません:-)

ポリゴンメッシュ法線ベクトル終点分布の分析

龍頭形態分析と同様に,MeshLab>Filters>Remeshing,Simplication and Reconstruction>Remeshing:Isotropic Explicit Remeshingを使って,できるだけ均等なポリゴンで頭部をリメッシュします。そのポリゴンごとの法線ベクトルを定義して面の向きを性質を表すものとします。

法線ベクトルはそれぞれのポリゴンの基準点を始点とした単位ベクトルなので,すべての法線ベクトルの始点を一致させると,頭部の面の方向性に応じた終点が半径1の球面上に分布することになります。仮に,このシーサーの頭部が首の付け根も含めて完全に球体となっているなら,この終点の分布は完全に球面上に均等に分布することになります。

ところが,このシーサー頭部の法線ベクトルの傾向には,これまで同様な分析をしてきた宮彫りの龍頭に見られる何らかの方向性が見当たりません。まったく自由に(全体の調和に縛られることなく)材料を重ねて3Dを造形しているように見えます。とても興味深いですね。

上図左上と右下の端付近のピークの強さは,シーサー頭部3Dモデルの後部付近データ欠落に伴ったものなので,欠落部分を補完した面の法線方向がおおむね顔正面の反対側に集中していることによります。この部分は無視して全体のピーク分布特徴を見ても,これまでの造形物とは異なり,何らかの秩序,リズムのようなものを確認することができません。

後頭部,背部形状情報欠損部の形状補間状況

このようにして得られて法線ベクトルの方向性を表すヒートマップから,正面(\(x\)軸方向:\(\phi=0\))つまり\(x-z\)平面で切り取られるプロフィールの空間周波数成分を算出すると以下のようになります。縦軸は周波数成分のパワースペクトル(\(dB\))です。

これと比較するために一般的な宮彫(龍頭)に対する同様な解析結果を

示しますと,比較的に高周波の成分の大きさに顕著な違いがありそうです。

まだ数体シーサーデータがありますので,この作文は続けたいと思います。とにかく,愛らしく味のある造形の一つだと思います。

シーサー② 07_21_11.41

時間が開いてしまいましたが,次のシーサーに登場してもらいます。

このシーサーは、着色の仕方と表面の凹凸がとても特徴的です。特に、鼻先の形状が強い印象を与えます。

頭部の様子を見ていきますと,シーサー①と比較すると,①の方が異形な雰囲気があり,シーザー②の造形は,比較すると実世界の生き物よりにも見えてきます。①と同様に法線ベクトルの終点密度ヒートマップを見てみますと,

のように,シーザー①のヒートマップと比較して,面の方向性に疎密がある,つまり方向性が比較的ありそうに見えます。それでも,これまで実施してきた宮彫の龍頭に対する同分析から得られるヒートマップと比較すると,意図的な方向性は見当たらないと言った方が適切にも思えます。その方向性の無さがシーサーがもつ無垢な面白さにもつながっているのかもしれません。

シーザー②の正面方向(\(x-z\)平面上)にある法線ベクトル終点の密度分布の空間周波数成分は,

となっています。シーサー①の結果と並べてみますと,

シーサー①(対数振幅比11.37)の\(2Hz\)成分とその倍音である\(4Hz\)成分が見当たらないところが特徴的です。その一方で\(0.0Hz\)から\(1.6Hz\)程度では,①,②ともに同じ傾向にであることも容易に確認できます。ここにシーサー造形がもつ基本的なものがあるのでしょうか。

1.910Hz, 2.228Hz, 4.138Hzの周波数成分の有無による造形特性の違い

まずは,大まかに上図の周波数とシーサーの頭の造形との関係を考えています。aiの助けももらいつつ,自分のやっていることを確認していきますと,以下の理解にたどり着きます。

  • 彫刻の「表情」は曲率だけではなく 面の向きの節(変わり目)の配置 で決まるため
  • 法線方向の分布に対する FFT は “表情のリズム” を抽出することになる
周波数帯表すもの造形上の意味
低周波 (〜1Hz)なだらかな面の移り変わりどっしり感・ボリューム感
中周波 (1.5–3Hz)明確な“表情の節”の位置額の張り、眉→鼻筋→口元の「意志」や「表情の強さ」
高周波 (3Hz〜)細かな起伏毛並み、シワ、牙などの質感・迫力

との見解です。さらに,ここで注目しているシーサー②と比較してシーサー①では欠落している周波数成分\(1.910Hz, 2,228Hz, 4.138Hz\)について具体的に見ていくと,

周波数造形に現れる性質見た目の印象キーワード
1.910Hz (k=6)額〜鼻〜口へ向かう 大きな力感の流れ「張り」「構え」「重心感」
2.228Hz (k=7)眉・鼻梁・口元などの 部位間の区切りの強調「彫りが深い」「表情がはっきり」
4.138Hz (k=13)毛並み・陶器肌の 細かな質感・彫り「細工が細かい」「生き生きした肌理」

となり,逆にこの周波数成分を含まないシーサー①については,

  • 顔の「立体的な抑揚」が減り
  • 表情の「方向性・意図」が弱まり
  • 表面の「生々しい迫力」も薄れる

おおらか / 子どもっぽい / デフォルメ的 / やさしい印象のシーサー になる。

との見解も間違っていないように思えます。確かに,シーサー①の方が無邪気に爆発しているようにも思えます。もちろん両方とも好きですが:-)

続けてシーサー③に行きたいと思います。

シーサー③ 07_21_11.44

シーサー③

これまでと同様に頭部の3Dデータのみを取り出し,さらに自動的に外挿されている面はできるだけ取り除いた後で,この表面の曲率分布を求めます。

その形の印象とは合わず,縁取りのような曲率変化の部位は少なく,全体の面が相対的ではありますが,これまでの①,②と比較するとやや弱いようにも見えます。このことが何を意味しているかと言いますと,例えば目,鼻を造形するとき,3Dであってもまずはその輪郭を強調して肉を盛るような造形が,3D物体であっても,平面性の強さを示す傾向にあること示しています。それに対してこのシーサー③では,輪郭強調に頼らない(相対的ですが)より3Dそのものの表現に力を入れています。

正面方向である方位角\(\phi=0\)での法線(ベクトル終点出現頻度)分布ヒートマップのプロフィールを書き出してみます。

11.44シーサー③法線(ベクトル終点出現頻度)分布ヒートマップ
11.44シーサー③ 方位角\( \phi=0 \)でのヒートマップのプロフィール

となり,屋根の斜面よりやや上向きに面の強さを持っていることが確認できます。同時に,このプロフィールをシーサー①,②とも比較してみたいと思います。

シーサー① 11.37
シーサー② 11.41

シーサー①,②,③のヒートマップ・プロフィールを波形と見なして抽出した空間周波数成分の分布は以下のように比較できます。

この周波数成分を説明変数として主成分分析を考えていますが,まだまだシーサーが足りません。シーサー解析を継続したいと思っています。ただ,上図での目視での考察としては,11.41のシーサー②の違いが目立っているようにも見えます。シーサー①,③の非現実的な顔の形に対して,②は生き物の形として,比較的現実のもののようにも見えます。その意味でも①,③は物の怪のような雰囲気を強めているようにも見えます。

シーサー④ 07_21_11.47

お面的な頭部です。凸より凹の曲面がこの形の印象を強く支配しているようにも見えます。

裏側から

背部側から見るとその薄さが確認できると思います。

法線ベクトル

最終的にこのシーサー④の空間周波数成分は以下のようになります。

④の頭部はお面のように平べったい造形となっているためにか他のシーサーと比べて低周波の第3周波数(\(0.637Hz\))の成分が相対的に低いように見えます。それから,第9,10(\(2.546Hz, 2.865Hz)の低さも気になります。

シーサー⑤ 07_21_11.49

このヒートマップより,正面\(x\)軸を向いたファセットの数より左右を向いているファセットの数が多い傾向にあることが分かります。そのことは,このシーサーではその側面への作り手の意識が高いとも言えるのかもしれません。

しかしながら,他のシーサーとの比較を行うため,とりあえず\(\phi =0\)の法線ベクトルの出現頻度から空間周波数成分を求めすと,

となります。なかなか分かりやすい傾向を探し出せません。

シーサー⑥ 07_21_11.55

そこにこの造形の良し悪しはないと理解していますが,左右対称性,額,両目をつなぐ線,上唇とした下あごに接する横方向の線間に平行関係がなく,つまり形全体としてはゆがんだ形となっています。それが動的な何かを生み出しているのかもしれませんが,それぞれのズレ方,ゆがみ方に全体の形のバランスを意識した“制御”されたものは,良くも悪くも無いように見えます。これもまた興味深い形です。

\(\phi=0\)でのヒートマップのプロフィールは

となり,天頂方向に近い峰と真正面(\(x\)軸)に近い方向での峰の2峰性があることが確認できます。これは,見せたい真正面の形をそのまま前に突き出したような形になっているとも言えるのかもしれません。

このプロフィールの空間周波数成分を求めますと,

となります。高周波帯の周波数成分が大きいのは,このシーサーの表面の細かい凹凸が顕著なことに寄るかもしれませんが,低周波帯での周波数成分の大小関係も他のものと差異があるように見えますので,何か特徴的なものがあるかもしれません。すべてのシーサーの周波数成分が求まりましたら,その成分を説明変数とした主成分分析をまずは実施してみたいと思っています。


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